ミラノサローネ2025 レポート|人間を想う最新のインテリアデザインとは
2025年4月、イタリアで世界最大級のデザインイベント「ミラノサローネ」が開催されました。
デザインの見本市は単なる流行を紹介するものではなく、トレンドを生み出している現在進行形の背景・ストーリーを深くまで覗くことができるイベントになります。
ミラノサローネ2025の現地視察を行ったスタッフによる最新レポートから、
- ミラノサローネ2025の特徴とテーマ
- 視察から見えてきたインテリアデザインのトレンド情報
についてご紹介します。
本ページ末尾には、無料でダウンロードできる「2025 ミラノサローネトレンドレポート」もご用意しています。この記事には収まりきらなかった最新トレンドの詳細、視察スタッフが厳選した今年注目の「ピックアップブランド20選」などを収録しています。ぜひダウンロードしてお楽しみください。
ミラノサローネとは?歴史あるインテリアデザインの祭典
ミラノサローネは毎年4月にイタリア・ミラノやその近郊で開催されるインテリア・家具の国際見本市です。2025年は4月8日(火)〜13日(日)の6日間にわたって開催されました。
ミラノサローネの歴史は古く、1961年にイタリアのメーカーが集結して行われた家具の見本市がルーツです。2025年のミラノサローネは第63回となりました。
2025年の会場はミラノ近郊にあるロー(Rho)市に建設された「フィエラミラノ」。16,900㎡を超える展示スペースに、世界中から2000以上の展示が集結しました。
ミラノサローネには、イベントの中心となる「サローネ国際家具見本市」に加えて、
- サローネ国際インテリア小物見本市
- 照明の見本市「ミラノサローネ・エウロルーチェ」(奇数年開催)
- キッチンの見本市「ミラノサローネ・エウロクチーナ」(偶数年開催)
- 「サローネ国際バスルーム見本市」(偶数年開催)
なども含まれ、インテリアや住まいに関する業界に携わる人にとっては非常に見どころの多い催しとなります。
ミラノサローネへの出展には、運営会社であるFLA Eventi 社による厳格な審査基準が設けられており、もし模倣品が発覚した場合には即時退場を求められることもあります。
徹底したガイドラインこそが、ミラノサローネの高い信頼性とクオリティを支えているのです。
ミラノサローネがインテリア・デザイン関係者の注目を集める理由
公式の発表によれば、ミラノサローネ2025の来場者数は30万人を超え、世界最大級のインテリアデザインの祭典は今年も大いに盛況を博しました。
一般公開は会期中の4月12日・13日のみで、それ以外の期間は、世界中から集まったインテリア・建築分野のデザイナー、サプライヤー、バイヤー、さらには投資家たちで賑わいます。
ミラノサローネには、最先端の優れたデザインが世界中から集まるだけでなく、そのデザインが生まれた背景にまで迫ることができます。メーカーやデザイナーが持つ独自のビジョン、解決しようとする課題に至るまで、空間・音・光・素材を通じて五感で体感できるという独自の魅力があります。
また、素材や製造に関わる技術がどこまで進化し、今後どの方向へ向かうのかをリアルに感じ取ることができるのも、このイベントならではの醍醐味といえるでしょう。
こうした体験は、インテリア・建築分野の専門家や投資家にとって、生産や流通の現状を見つめ直し、より創造的で持続可能なビジョンを描くうえで大いに役立つものとなっています。
若手デザイナーのための「ミラノサローネ・サローネサテリテ」
「サローネサテリテ(SaloneSatellite)」は、若手デザイナーのためのミラノサローネの公式サブイベントです。インテリアデザインの未来を担う、世界中の35歳以下の若手クリエイターや学生たちに出展の機会が与えられます。
2025年のミラノサローネ・サテリテには「NEW CRAFTSMANSHIP: A NEW WORLD(新しいクラフトマンシップ:新しい世界)」というテーマが掲げられました。
ミラノサローネ・サテリテでは「クラフツマンシップ=職人の手仕事」とそれにつながる「伝統と革新」という価値観が大切にされています。
これまでサテリテに出展された作品からは、後に国際的に評価されるプロダクトが数多く誕生しており、未来のデザインを占う上でも非常に重要な存在としても注目されています。
会場内では、柔軟で気概ある若手ならではの発想と世界に向かう鋭い視点が随所に見られ、大手ブランドの展示とは趣の異なる、自由で実験的なエネルギーを体感することができます。
2025 ミラノサローネ|テーマ「Thought for Humans」の真意を読み解く
出典元:ミラノサローネ国際家具見本市
ミラノサローネ2025のメインテーマは「Thought for Humans(人のための思考)」でした。
「人間は考える葦(あし)である」はフランスの哲学者パスカルの有名な言葉ですが、原文ではさらに「人間のあらゆる尊厳は思考のうちにある」という言葉が続いています。
ミラノサローネのテーマ「Thought for Humans(人のための思考)」からは、『思考』という人間らしさ・尊厳の本質を改めて認め、そのために最適な空間・環境を見出そうとする意思が感じられます。
またアメリカのフォトグラファー、ビル・ダージン(Bill Durgin)氏による美しいキービジュアルからは、身体性と物体性の境界が互いに溶け入るような、示唆的なメッセージも受け取れます。
現地で実際に見て、触れて、使ってみることのできた出展内容からは
- 人間らしい感情や感覚
- 心の余白や曖昧さへの肯定
- 人間同士のふれあいや共感
などを重視している様子が観察されました。
展示された数えきれない優れた製品からは、使う人のことを第一に考えたデザイナーや家具職人たちの思考の軌跡を思い描くことができます。
「身体性」とも言える人間固有の感覚や感受性を通してそれぞれが人間らしい思考を守り、人、社会、自然とつながりが深まるような家具を目指す、というのがミラノサローネ2025のメインテーマ「Thought for Humans(人のための思考)」の真意なのかもしれません。
現地視察から見えた、2025年のインテリアトレンドの注目ポイントは?
「人のための思考」という深みのあるテーマから出発した数々の優れた製品からは、2025年のインテリアデザインの現在地が見えてきます。
ここでは現地を視察したスタッフたちのレポート中から、
- カラー
- マテリアル
- フォルム
- 質感・仕上げ
- コーディネート
という5つの分野で感じられた特徴的なトレンドをご紹介します。
2025年のトレンド①:カラー|洗練されたコーディネートの幅が広がる
ミラノサローネ2025では、いくつかの特徴的なカラーが深く印象に残りました。
- モカムース…コーヒーやスィーツを連想させる、落ち着いたグレイッシュなブラウン
- ホライゾングリーン…心を穏やかにさせるややスモーキーなグリーン
- テラコッタ…広大な大地や素焼きの器を連想させる赤茶色。ここ数年非常に人気が高い
2025年は2024年の人気色をベースにしつつ、思考を刺激するような鮮やかでインパクトのある色が加えられています。
豊富なトレンドカラーからは、重ね方次第でより深みやストーリー性あるコーディネートがどんどん生まれる可能性を感じられました。
※他の注目トレンドカラーについては、本ページ末尾の「2025 ミラノサローネ トレンドレポート」ダウンロード資料で、ぜひチェックしてください。
2025年のトレンド②:マテリアル|安心・やさしさのある触感
素材選びにおいては、視覚的な魅力に加えて“触れてみたい”と思わせる工夫が多く見られました。
張地の中でも特に勢いが感じられたのは、触れると安心感を感じられるやさしい触感のもの、テクスチャーがユニークで表情の豊かな素材です。
- ブークレ
- ベルベット
- スエード
深い思考の土台として不可欠な安心感や穏やかな心をもたらす素材と言えるかもしれません。
そのほかにもラタンやコルクなど、サステナビリティと高いデザイン性を両立できる素材が広く活用されていました。
2025年のトレンド③:フォルム|落ち着きとスマートさ
有機的な曲線による表現を少し抑えて直線と平面による表現にフォーカスした、ミニマルで落ち着きのあるデザインに、2025年のトレンドの方向性が感じられました。
ミニマリズムやストイシズムに寄り過ぎず、素材の質感や色の組み合わせで深い表情を出す技術とアイデアがより研鑽され、深化しているようです。
一方で、柔らかさのある素材を活用したボリューム感のあるフォルムは2024年に引き続き、今年も多くの家具ブランドが採用していました。とはいえフォルムの厚みや膨らみは2024年に比べてやや控えられ、よりスマートになっている様子が観察できました。
2025年のトレンド④:質感・仕上げ|深みのある質感と組み合わせの妙技
質感・仕上げの主流の一つは、上の「素材」の項でもご紹介した、安心感・やさしさを感じられる張り地ですが、そのほかにも下記のような仕上げに2025のトレンドを感じることができました。
- エレガントさを感じられるグロッシーな塗装
- ヘアライン仕上げとした、硬質でシックな金属
- 本来の木目の美しさを活かした木材
高級感のある素材を華美になりすぎないように仕上げ、空間全体に「思慮深さ」を感じられる品格を纏わせることができそうです。
さらに、硬質なインテリアを効果的に配置することで奥行きを持たせ、メリハリを効かせるコーディネートが印象的でした。
2025年のトレンド⑤:コーディネート|注目を集めた「和」の心
デザインの根幹ともいえる精神性の部分では、「和」の要素を感じさせる展示が各所で注目を集めていました。
装飾性を意図的に削ぎ、空間に余白を残したコーディネートや、静けさと調和の精神が感じられるプロダクトやコーディネートが複数見受けられました。
静かで深い思索を容易にする空間デザインのために、日本的な美学の象徴である「侘び寂び」が活かされているようにも思えます。
このような「和」の精神をコンセプトにした展示は海外の来場者からも注目と評価を集めているようでした。
今後のインテリアデザインにおいては、精神性や深層心理によりフォーカスされる流れが生まれているのかもしれません。
ミラノサローネ2024との比較でわかる、インテリアデザインの現在地
2024年のミラノサローネでは、下記のような特徴が観察されました。
ミラノサローネ2024の特徴:
- 旧来の“造形としてのデザイン”から、社会・未来に深くかかわるデザインへの「進化」がメインテーマ
- ボリューム感と丸みが際立つ、包み込むような優しさを感じる曲線フォルム
- ブークレ、テディベアファブリックのように起毛性で温もり・やわらかさ感じられる素材
- ピーチファズ、テラコッタ、グレージュ、セージグリーンなど、ソフトで有機的な色調
これらの特徴とミラノサローネ2025の展示を比較してみると、方向性はそのままに人間の内側(感情・感覚)にも外側(社会や自然)にもより踏み込んだデザインへと変化している様子が伺えました。
また全体的に、落ち着き・調和・安心感など、人の思考に深く関わる要素が随所に組み込まれていたのも特筆したいポイントです。
これらはパンデミックを経た私たちの無意識の中に入り込んだ、人や社会との間の距離感や、現代生活の一部となりつつある「生成AI」など、人間らしさが薄まる可能性を孕んだ社会的な流れへのポジティブな反発とも理解できるかもしれません。
※2024年→2025年のトレンド変化をまとめた比較表を、本ページ末尾の「2025 ミラノサローネ トレンドレポート」ダウンロード資料でチェックできます。ぜひご覧ください。
2026年のミラノサローネの会場・開催期間は?
来年のミラノサローネは、2026年4月21日(火)から4月26日(日)までの6日間、2025年と同じくイタリア・ミラノ近郊のロー市の会場「フィエラ・ミラノ」で開催されます。
2026年のミラノサローネでは、隔年(偶数年)開催となる
- キッチンの見本市「エウロクチーナ」
- 「サローネ国際バスルーム見本市」
なども催される予定です。2025年とは違った楽しみ方ができるイベントになりそうです。
まとめ|「思考」という人間の本質に寄り添う家具が求められる
考えるという行為は頭で行うものですが、その思考を支えているのは私たちの「身体性」と言えるかもしれません。
私たちの思考は、たとえ無意識のうちにであっても、見えるもの、触れるもの、聞こえるもの、香るものなどに影響を受けています。
そのような「思考」とそれを支える道具としてとらえた「家具」のミラノサローネの展示からは、人間らしさや社会との関わりについて考える上でのポジティブなヒントをたくさん見つけることができました。
キノシタでは毎年ミラノサローネを訪れ、世界の最先端トレンドをいち早く捉え、製品づくりに反映しています。2025年9月には、今年の視察を通じて得たエッセンスを盛り込んだ新商品を発表予定です。今後のラインアップにも、ぜひご期待ください。
▼新商品の展示会の様子(2024年)
この記事には収まりきらなかった最新トレンドの詳細、視察スタッフが厳選した今年注目の「ピックアップブランド20選」などを収録している「2025 ミラノサローネトレンドレポート」もあわせてご覧ください。
- 最終更新
- 2025.06.16