ミラノサローネ2024 レポート|家具インテリアの最新トレンドとこれからのデザイン
どんなジャンルのものであれ、デザインの最新トレンドからは、単なる流行だけでなく同じ時代に生きる人々が求めているものが見えてきます。
2024年の家具デザインのトレンドや消費者のニーズを把握したい人にとって、ミラノサローネは非常に重要なイベントの一つと言えるでしょう。
この記事では、
- 知っておきたいミラノサローネの基本情報
- ミラノサローネの展示に見られる、家具デザインのトレンド傾向
- ミラノサローネの展示からわかる、これからの家具デザインに求められるもの
などについてご紹介します。
当ページの末尾では、無料ダウンロードできる「2024 ミラノサローネトレンドレポート」をご用意しています。
ミラノサローネとは?
ミラノ・サローネとは毎年4月にイタリアのミラノ市で開催される、世界最大級の家具の見本市です。正式名称は「ミラノサローネ国際家具見本市(Salone Del Mobile. Milano)」といいます。2024年は4月16〜21日の6日間の開催となりました。
ミラノサローネでは世界35カ国から約2000の展示が集結しました。展示面積は17万㎡以上と、十分に見学するには何日もかかる規模です。
ミラノサローネ出展に際しては運営企業であるFLA Eventi社の審査を要する上、万が一模倣品が見つかるなら即刻退却を求められるなど、世界トップクラスの家具ブランド・メーカーがその威信とプライドをかけて参加する一大イベントとなっています。
主にビジネス目的の見本市であるため、開催期間中の火曜〜木曜は家具・インテリア業界関係者のみが入場できますが、金曜日以降は学生が、さらに土・日曜は一般客が来場可能となります。
ミラノサローネの歴史、そして注目を集める理由
2024年のミラノサローネは第62回となりました。ミラノサローネの歴史は古く、1961年に開かれたイタリアの家具メーカーが集結して行われた見本市がその始まりです。
1967年には海外の家具メーカーも出展するようになり、回を重ねるにつれミラノサローネはより大規模で国際的なものへと成長していきました。
現在では世界最大規模の見本市となったミラノサローネは、毎年下記のような理由で注目を集めます。
- 家具のトップデザイナー・ブランドが集結し、最新のプロダクトが発表される
- 家具・インテリア製造に関する高度で先鋭的な技術を見学できる
- 次の世代を担う新ブランドや若手デザイナーの登竜門としての役割を果たす
このようなわけで、今やデザイン分野で世界的な影響力を持つイベントとなっているのです。
ミラノサローネの2024年のテーマは「進化」
2024年のミラノサローネのテーマは「進化」でした。
人の暮らしや心理に寄り添うもの、というデザインの普遍の役割に立脚しつつ、未来を見据えた変革を見つけるためのさまざまな試みが会場内に反映されていました。
たとえば神経科学に基づいて設計された会場レイアウトや、映画界の巨匠デヴィッド・リンチ監督によるインスタレーション「A Thinking Room(考える部屋)」、新しい学びとコミュニケーションの場となる「デザイン・キオスク」など、特徴的なイベント構成が挙げられます。
このような試みから、人間の持つ感受性や深い思考力、コミュニケーション能力などを駆使することにより、デザインがより良い未来へ繋がるものとなるよう進化させようとする意気込みが感じられるイベントとなりました。
ミラノサローネ、フォーリサローネ、デザインウィークの違いは?
毎年ミラノサローネの開催時期に合わせて「フォーリサローネ」というイベントも行われます。
フォーリサローネは家具以外の他業種から多種多様な企業(たとえば自動車メーカー、IT企業、ファッションブランドなど)が“デザイン”の楽しさや可能性を意識した特別な企画・展示などを開催します。
フォーリサローネはミラノサローネとは直接の関係はなく、取りまとめる運営団体もありません。
ミラノサローネとフォーリサローネが同時開催される週は「ミラノデザインウィーク」と総称されます。この時期のミラノ市界隈は、国際色が強く大規模なデザインの祭典として大いに盛り上がりを見せる期間となります。
2024年のミラノサローネ・レポート|現地視察から見える家具・インテリアのトレンドとは?
展示された最新の家具をつぶさに観察すると、優れたデザイナーたちが今何を考えて家具をデザインしているのか、消費者のニーズをどう捉えているかについての興味深く考察することができます。
ミラノサローネの現地視察から見えてきた、家具の最新トレンドの一部をご紹介します。
2024年の家具・インテリアトレンド①:素材|テクスチャー+触れる喜び
ミラノサローネの展示品の中では下記のような素材の家具が人気でした。
- 曲木加工された天然木(ビーチ、オーク、アッシュなど)
- ブークレ(表面の糸がタオルのようループするように編まれたファブリック)
- 独特なテクスチャー感が生まれるよう加工したガラスやスチール
素材自体はどれも古くから家具に使用されてきた物ですが、共通する特徴としては、均一で無機質な素材ではなく、ナチュラルで触れてみたいと思わせるような質感に加工された素材が数多く見受けられました。
ガラスやスチールなどもそのまま使用するのではなく、月面のクレーターのような凹凸や、砂漠の砂のように波打つ質感など、好奇心を惹きつけるように加工された素材が異彩を放っていました。
2024年の家具・インテリアトレンド②:カラー|人気の「ピーチファズ」とアースカラー
今回のミラノサローネでは下記のカラーを巧みに使用したデザインが目立っていました。
- ピーチファズ…桃や人の肌をイメージさせるピンク
- テラコッタ…豊かな土壌や素焼きの器のようなブラウン
- セージグリーン…ややくすみのある黄緑色
ピーチファズは2024年のトレンドカラーで、温もりや優しさ、思いやりなどのイメージを内包しています。
テラコッタやセージグリーンのように、自然界のさまざまな物を連想させる色はアースカラーと呼ばれます。
豊かな色彩で彩られるミラノサローネにおいて際立っていたこれらの色が、2024年以降のインテリアデザインにおいて主要なトレンドとなりそうです。
2024年の家具・インテリアトレンド③:フォルム|フィーチャーされる有機的な曲線
家具デザインの分野ではこれまで、直線的で無機質なフォルムのデザインがモダンとされていました。
2024年のミラノサローネではそのモダンの定義の変化を感じさせる、下記のようなフォルムのプロダクトが多く展示されていました。
- 自然との調和が感じられる有機的な曲線
- まるでぬいぐるみのような視覚的・触覚的柔らかさを感じる丸み
- ダイナミックなボリュームをもつ躯体・クッション
これらの形状は個を包み込みリラックスさせる包容力と、ハイスピードな社会の動きから距離をおくタイムレスな使用感をイメージさせます。
このようなフォルムに見られる特徴は、これからのインテリアデザインのトレンドを推し量る上での重要なヒントとなるかもしれません。
2024年の家具・インテリアトレンド④:アウトドア|屋根のない場所での過ごし方
ヨーロッパの飲食店では店の外のテラス席が設けられるのが一般的なため、ミラノサローネではそのような屋外における使用を想定した家具のライナップが豊富であることも印象的でした。
現地の人たちは冬でもテラス席での食事を好むのだそうです。
日本におけるアウトドアのイメージはキャンプやバーベキューなどのアクティビティに直結するかもしれませんが、ミラノサローネに展示されたアウトドア家具はレジャー用途とは趣旨が異なります。
これからは日本でも、ヨーロッパのように野外における居場所や過ごし方のバリエーションが広がると、暮らしの豊かさに繋がる可能性が感じられました。
2024年の家具・インテリアトレンド⑤:サステナビリティ|さらに進化した普遍のテーマ
ミラノサローネの代表、マリア・ポッロ氏の公式コメントにもある通り、ミラノサローネはイベント全体としてサステナビリティを最重要視しています。
展示品の中にもリサイクル素材に加えて、レザーのように適切にメンテナンスすることで長期間使用できる素材や、大理石のように恒久的に活用できる素材を活用した家具がみられました。
このような環境的サステナビリティを過剰にアピールすることなく至極当然のものと捉え、さりげなくデザインに取り入れる姿勢は、実に2024年らしいトレンドと言えるかもしれません。
ミラノサローネのトレンド傾向から見える、これからのインテリアデザイン
2024年のミラノサローネでは、メインテーマである「進化」というキーワードにふさわしいデザインの新作家具を多く見つけることができました。
今回のミラノサローネで特徴的であったアースカラーや有機的な曲線、温かみの感じられる素材をフィーチャーしたたくさんの作品を眺めていると、自然回帰的なデザイン、人間の感覚により素直にフォーカスしたデザインが、これからのモダンの中心になっていく気配が見られました。これがミラノサローネ2024のメインテーマである「進化」の真意のひとつと言えるかもしれません。
先述のような自然回帰的なデザインは「バイオフィリックデザイン」と呼ばれますが、これは人間は自然との繋がりを求める生き物である、という理論に基づいています。
人間の感覚を中心に据えたデザインは「ハプティックデザイン」などと呼ばれます。これは人間は自分の感覚を通して外の世界と繋がっているという考え方に基づいたデザイン理論です。
ハプティックデザインは主にテクノロジーの分野で注目されていますが、これからはインテリアデザインの分野にもこの考え方が広がっていくかもしれません。
これからのインテリアには、個々の暮らしや存在を尊重つつも、人と人、また人と自然をつなぐデザインが求められるというひとつの方向性が、家具デザインの最前線で感じられました。
まとめ
2024年のミラノサローネの現地視察から、自然回帰的な傾向や、人間の感覚にフォーカスしたものが家具デザインの主流となっている様子がわかります。
消費者のニーズとしては、機械的で無機質なスタイリッシュさより、癒しや温もりが感じられるナチュラルさが求められている傾向も見られます。
個を尊重し包み込む包容力のあるデザイン、人と人、また人と社会との、時代にあった新しい距離感を提示できるデザインが、今後のトレンドとなりそうです。
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- 最終更新
- 2024.08.28